Messages

ジェネラル・プロデューサー
真木 太郎

かつては”ジャパニメーション”と呼ばれた日本のアニメーションは、”アニメ”という言葉になりました。そして配信の時代になった現在は、グローバルコンテンツとも称されます。全世界に多くのファンを獲得した「アニメ」は同時にその生産量の多さからか、消費されるコンテンツの側面も持っています。
以前は子供やマニアが対象だったアニメーションですが、もはや全世界的に一般的なエンターテインメントになろうとしています。そういう背景を踏まえて、この新潟国際アニメーション映画祭では、アニメーションの持つ価値の再発見や再評価の試みも重要な目的の一つです。国際的なのクリエイターとの交流やアーカイブ作品の上映はもちろんのこと、アニメーション研究者に発表の場を提供し、またワークショップなどの人材育成も行います。
日本で最も多くのアニメーションとマンガのクリエイターを輩出し、アニメ情報館やマンガ図書館を持つ新潟が、世界中のアニメーション関係者の、有意義な出会いの場になるように、私は努力したいと思います。

プログラム・ディレクター
数土 直志

新潟から新たなアニメーションの意味づけを

アニメーションの楽しさをもっと多くの人に知ってもらいたい。
アニメーションの新たな意味づけをしたい。
新潟国際アニメーション映画祭は、2023年3月にそうした想いと共にスタートします。

21世紀になり、世界のアニメーション映画は多様化と多角化が顕著になりました。
変化は「創造する地域」「テーマ/ジャンル」「作品を伝えるメディア」の3つで見られます。

まずは「創造する地域」です。いまアジア、ヨーロッパ、アメリカ、アフリカ、中東、オセアニまで、世界中でこれまでの歴史にない量のアニメーションが制作されています。
多様な作品を価値づけし、発見するには、同様に多角的な新たな視点が必要とされています。しかし制作が世界に広がる一方で、作品の情報や価値を共有する場所はヨーロッパや北米に偏りがちです。
新たな変化を捉えるのに、日本ほど最適な場所はありません。長い間、東アジア、東南アジアのアニメーションのクリエイティブネットワークのハブであった日本は、多くのクリエイティブや情報が集まっているからです。

新潟という都市も重要なポイントです。クリエイティブの多極化は、国単位だけで起きているわけではありません。
日本では長くアニメーションは東京一極集中とされていました。しかし制作技術の進展と昨今のコロナ禍による生活様式の見直しもあり、いま東京以外の地域でアニメーションの制作活動をする人が増え、新しいスタジオも次々に立ち上がっています。新潟はアニメーションと漫画を創る新しい地域として、まさに台頭しつつあります。
その新潟で国際アニメーション映画祭を催すことで、アニメーションの世界に起きている変化を伝えたいのです。

もうひとつ提案したいのは、長編アニメーションの重視です。
ジャンルが多様化するなかで、なぜ長編アニメーションのフォーマットにこだわるのか?
現在は映画祭でも注目の高い長編ですが、映画文化のなかで注目されるようになったのはごく最近です。米国アカデミー賞で長編アニメーションが初めて設けられたのは2001年だったことを思い出してください。
アニメーション映画祭では長らく、短編に特にスポットがあたっていました。短編には絵画や彫刻、音楽と同様の作家性がより表れると考えられていたためです。
一方で長編はいまアニメーション文化の多様性の最先端となっています。ヨーロッパの巨匠たち、巨大な予算をかけるハリウッド制作のCG、“アニメ”と呼ばれる日本の2Dスタイル、さらに多くの地域から独自の文化と歴史を背負った作品が登場しています。しかし、これらは同じ視点からの批評がなく、ばらばらな世界に存在しています。
“映画”と共通の視点を与えることで、分断を超えた新しい価値づける。そこに作品の並列化が生まれるはずです。新潟はアニメーションの新しい見方を提案することで、アニメーション文化の発展に寄与します。

そして最後に伝えたいのが、アニメーションを見る体験です。
映画はもう何十年も前から、テレビ、ビデオソフトなどを使って家庭でも見られています。いまは動画配信サービスの普及で、さらに手軽に、スマートフォンでも観ることが可能です。
しかし手軽に観られる時代だからこそ、作品を観る体験が重要になっているはずです。パーソナル空間での鑑賞と、映画館という他者と時間と空間を共有するなかでの鑑賞はまた経験が違います。アニメーションにおいて、その異なった経験を提供したいのです。

それはこれまでの劇場映画の枠に捉われない理由でもあります。配信映画やVR、仮想空間で存在する作品も、映画祭という場を与えることで新しい価値が生まれるはずだからです。そうした鑑賞の共有体験の楽しさをより高めるためにも、新潟の豊かな文化は大きな力を発揮できるはずです。

新潟は日本海に面する最大の都市・港であり、中国や韓国、ロシアを結ぶ交通と文化のネットワークとしての長い歴史を持ちます。豊かな自然と歴史、クリエイティブへの積極的な取り組みが多くの人を引き寄せています。
年に一度、新潟に来れば世界のアニメーションの新しい価値、トレンドが知ることが出来る。
新潟国際アニメーション映画祭は、そんな場所になるはずです。

Board Member/Staff

新潟国際アニメーション映画祭実行委員会
委員長 堀越謙三

なぜ新潟でこの映画祭を開催するのか?

新潟ではこの約30年の間に3000人のアニメ、マンガのクリエーターが専門学校を中心に育成されている。人材育成では日本で最も実績があり、さらに開志専門職大学にはアニメ・マンガ学部があり、新潟大学にはアニメーション研究室がある。これはアニメーションの技術者だけではなく、プロデューサー等も含めた、アニメーション業界が必要とする人材を全て新潟で、しかも制作現場で育成できる、ということを意味します。
また新潟は、ロシア、朝鮮半島、中国に向かった日本海最大の国際貿易都市として、300年以上の歴史を持つ。それはイタリアのジェノヴァやヴェネツィアなどの地中海に臨んだ海洋都市、あるいはドイツのハンブルクなど、北海に臨んだハンザ同盟都市と同様に、新潟は幕府統治の時代でも、自ら統治しようとした市民都市としての歴史と、海洋都市という地勢が、クリエーターに必須の自由な想像力、批評精神を培ってきたはずだ。
その土壌こそ新潟が多くの著名なマンガ家やアニメーション・クリエーターを輩出してきた根拠であり、この映画祭を開催する理由だと言える。また新潟は海外貿易ばかりでなく、映画祭のロゴに採用した北前船で、北海道から京都へと最高の食材を運び、新潟の発酵文化とともに、日本食の味の基本を決める役割も果たしたといえよう。
新潟は日本一の酒どころ。さらに九州一周に匹敵する海岸線から採れる、案外知られていない多様な海産物を食べながら、熱くアニメーションを語り合える場所を提供して、新潟で国際映画祭を開催するもう一つの、重要な根拠にしたい。

堀越謙三:映画プロデューサー、ユーロスペース代表、開志専門職大学アニメ・マンガ学部長、東京藝術大学名誉教授
製作した映画には例えば、レオス・カラックス「アネット」、アッバス・キアロスタミ「Like Someone in Love」、フランソワ・オゾン「まぼろし」、ウェイン・ワン「スモーク」など、著書に「インディペンデントの栄光」(筑摩書房)